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東京地方裁判所 昭和42年(ワ)3807号 判決

原告 埼玉銀行

理由

請求原因事実は当事者間に争いないので被告の抗弁について判断する。

被告会社代表者尋問の結果と弁論の全趣旨によれば、本件手形は被告が訴外養和伸銅株式会社から買受けるべき黄銅丸棒七トン半の売買代金の前渡金として振出されたものであるところ、右訴外会社は倒産し右黄銅引渡債務の履行がされていないことを認めることができる。しかしながら、原告において、本件約束手形が右のごとく前渡金手形であり、かつ、満期においても右引渡債務が履行せられないであろうことを予測しながらこれを取得したことを認めるに足る証拠はない。被告はこの点に関し原告の悪意を推測させる事情として(イ)本件約束手形が訴外会社帳簿に仮受金として記帳されていること(ロ)訴外会社が右売買契約当時資金的に行きづまりを来しその工場および敷地等一切の財産を訴外青楓産業有限会社に譲渡し清算すべく準備中であつたこと(ハ)そのため原告は右青楓産業に資金六〇〇〇万円を供与しその見返りに養和伸銅の各種預金を担保とし前記不動産に設定してあつた根抵当権の債権極度額金三〇〇〇万円を金三五〇〇万円に変更すべく右養和伸銅、青楓産業および原告との間に話合いが進行中であつたことを主張する。しかして被告会社代表者尋問の結果により(イ)の事実を認めることができ(ロ)の事実中養和伸銅の財産を青楓産業に譲渡した事実は原告の認めるところであり成立に争いのない乙第一、二号証によれば昭和四一年一〇月一三日受付同月三〇日変更契約を登記原因とし(ハ)のとおり変更登記がなされていることが認められるけれども、原告において訴外養和伸銅の帳簿を調査したという事実が認められない(この点に関する証人岡田本の証言被告会社代表者尋問の結果は証拠とするに足りない。)ので(イ)の事実は原告の悪意を推測させる資料とならずまた(ロ)の財産譲渡の事実も原告が本件手形取得当時譲渡の合意がなされ或いは話合い進行中でありかつこれを原告においても知悉していたものと認むべき証拠がないから前同様原告の悪意を推測させる資料となるものではない。また債権極度額変更の登記も被告主張の(ハ)のその余の事実を認めるに足る証拠は存しないのでこれまた原告の悪意を推測させるには至らない。尤も証人飯田広、同岡田本の各証言(いずれも一部)による前記養和伸銅と株式会社藤田商店と同成和伸銅の三社が合併して原告から融資を受けようという話合いがなされた事実を認め得るのであるが証人新藤正雄の証言によれば原告がそのような合併を助言したりこれを前提として融資を考えるというようなことを申出でたことはなく昭和四一年一〇月末頃養和伸銅の経理担当者から原告に申出があつたに過ぎないことが認められる(前掲各証人の証言中右認定に反する部分は措信しない。)ので右の事実も原告の悪意を推測させるものではない。

しからば被告の抗弁は採用することができないところ、冒頭記載のとおり当事者間に争いのない請求原因事実に基づく本訴請求は理由あるをもつて正当として認容

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